保育者も、子どもに関わる大人も、みんなで世界を変えていく
前回のVol.6では、幼稚園や保育園といった園という組織が、”いい園”であるためには?
また、日本国内の園全体がいい状態で在るためには?
そのような視点でお話を伺ってきました。(Vol.6はこちらから)
その中で見えてきた、かずませんせいの立ち位置や、保育業界の中で果たしていきたい役割のこと。
最終回となる今回は、かずませんせいの描いている未来、これからどんな方向に進もうとしているのかについて伺っていきます。
保育者の学び会える関係を、園の壁・業界の壁を超えて
―― 前回、国の推奨するモデル園のようなところへ、現職の保育者さんが研修に行ける制度があれば、なんていう話も出ましたね。
そういった、公的な仕組みではなくても、地域を超えて様々な園同士が出会うとか、そういうネットワークが出来るだけでも、保育者同士の学びの交流ができるのかなってイメージが湧いています。
保育園・幼稚園・こども園とありますけれど、そんな園の壁も越えられたらなんて思ってしまうのですが。
かずませんせい 今、保育者のキャリアを研究する中で、保育園の先生と幼稚園の先生とは、同じ「保育者」と扱われるんですけど、どうもキャリアの形成のされかたが違うんじゃないかな?って思っているんですよ。
というのは、どこかで幼稚園は「保育園ってこうだよね」。かたや、保育園は「これって幼稚園っぽいね」っていう、ある一定のイメージを持ち合いながら、ちょっとした対立みたいなものが存在している。
そこに対して、お互いの良さを混ぜたりできたらなって考えています。まだ全然具体的ではないですけど、いずれ、幼稚園研究会・保育園研究会を混ぜたような、幼保の実践報告会っていうのをやりたいなと思っていて。
それが、今おっしゃっていた、ネットワークやシステムにつながるかもしれないし。これが実現できたら、すごくおもしろいですよね。
幼稚園からしたら、0、1、2歳児の育て方は?ということを保育園から知れる。保育園側は、幼稚園を見て、3歳以上でこのレベルを教えるのかぁ、なんて知る機会にもなるし。ある世界と、ある世界をぶつけて出会わせる。僕がそのきっかけになれたら、おもしろいですよね。
―― 対立するのって、きっとお互いを知らないからですよね。
かずませんせい そうそう。幼稚園も経験して、今は保育園で働いて、どちらも楽しいですし、それぞれの良さがあるし。
―― かずませんせいや、私たちNAGOMI MINDが、お互いの理解を促して統合していく人たちになれたらいいですね。かずませんせいは、その学びの中心にいて。
かずませんせい AorBじゃなくて、AもBもがいいですよね。
―― これは、ちょっとおもしろいことになりますね。
外の世界をみることはバランスを保つためにも重要
かずませんせい 本当に大事なことだと思います、他を見るっていうことは。
僕の中学・高校時代の友だちは理数系に強い人や技術職が多いので、あえて、そういう人には少し縁遠いような保育についての論文を読んでもらったりしますね。
幼なじみが、建築コンサルタントの仕事をしていて、「次は仕事でエルサルバドル行く」なんて話をしているんですけど、僕からしたら、「どういうことなんだろう?」って感じじゃないですか。わからないんですよ、僕にはその業界のことが。
でも、あえてそういう人に論文を読んでもらうと「保育ってそんな感じなんだ」って知ってもらえると同時に、僕にとってもそこで新しい発見が生まれる。そういった他との混ざり合いみたいなことは、絶対大切にしたいですね。
―― すごい大事ですね。それだけですごく変わると思いますよ。
私自身、<会社員>と<バレエの先生>とか、常に真逆のことをしてきたんですよ。同時並行で。
一個に絞ったほうがいいこともあるんですけど、バランスが取れるのは真逆のことをしているとき。
平日は会社員として働いて、土日はバレエを教えるっていうのは大変でしたけど…、休みがないですからね。でも、いい感じにバランスが取れていた。なぜなら、頭の筋肉を含めた “使う筋肉” が全然違っていて。会社員だけでも、バレエの先生だけでも偏っていた。会社員とバレエの先生、両方をやっていたからこそ常にものごとを客観的に見られていましたね。
保育者の方って、保育だけになりがちだろうなと思って。ちょっと違うものも見てほしいなって思います。
かずませんせい 楽になると思います。そのほうが。
―― ある人が言っていた言葉が、すごくいいなって思ったんですが、一番の教育は生き様を見せることだと。その人の在り方とか、生き様が子どもたちに刺さってる。何を教えるかというのも大事なんだけど、結局のところは、どう生きているか?
ということは、一番子どもたちの近くにいる保育者の方々の生き様・在り方をどうにかするというのが究極ですよね。
自分がハッピーであることが、子どもたちに絶対大事だっていうのを、どこまでわかっていますか?って。自分を犠牲にしている場合じゃないですよ!っていうことですよね。
かずませんせい 本当にそうで、みんな(保育者)が幸せでいることが子どもの幸せ。それは親にも言えるんですけど。保育者も、保護者も幸せで居てほしい。それがひいては、子どもの幸せになるから。
そこには個人の限界もあるから、誰かしらが動かなくてはいけない、となったときに動くのが本当は政治家のような方であったらいいのだろうなとは思います。でも、そんなにフォーマルじゃなくても、インフォーマルな人でもいいならば、そういう架け橋みたいな人に、僕がなれればいいなと思うし。僕も誰かに助けられながら生きているから、何かそこに対してアクションできたらいいなって思いますね。
あえて道を絞らないかずませんせいの、これから進んでいく先は?
―― かずませんせい、どこに行くんでしょうね、この先。どこって場所じゃなくて(笑)、方向性という意味で。
かずませんせい あえて、昔から決めないようにしていて…。道がひとつになっちゃうので。あくまでも常に枝分かれしている道を歩んでいる気はしています。ただ、子どものためになるような道ではあるんだろうなと思います。保育者を育てる養成校の先生かもしれないし、保護者支援の活動かもしれないし…。
―― 自分の園を作るっていう道は無いんですか?
かずませんせい 無いですね。”園長先生になる” もない。
というのは、そこに注力しすぎちゃうと思うから。その園が好きで、その園にいる子たちが好きで、保護者が好きでって。そうなるとやっぱり僕にも限界がありますから、それ以外の園、それ以外の地域、それ以外の人たちに割く力が…って考えたら、もっと幅広く訴えかけるポストに居たいなって。
そう考えると、大学の教員とかはイメージに近いですかね。大学の授業もそうですけど、本を書いたり論文を書いたり、届ける手段が多いですから。
でも、大学の先生になっちゃったら、保育者ではなくなるんです。マインドは保育者なんですけど、見られ方は違ってくる。だから、現場には居続けたいという思いもあるんです。
土日は現場に出たりしながら、常にエンジン全開で。それこそ、NAGOMI MINDさんでも活動に携わる機会をいただいて、子どもたちと活動できるのも、自分にとって大きな経験ですから。
所属する場所というか、それはひとつかもしれないですけど、自由に動ける所が良いですね。今勤めている保育園もすごく理解があるので、どこで何をするのも「いいよ」と認めてくださるところです。そういう自由が効きながら、世のため、人のため、子どものためになるような活動ができる。そんな役割や場所があるといいなと。
―― 私も実は教員免許を持っていて…。でも、教育実習に行ったことをきっかけに、一度、企業に就職するという形で社会に出たんです。出て行って、出っ放しですけど(笑)。自分が、一学校の、一クラスの、一先生ってなにかが違うなって違和感を感じたんです。教科は教えなくていいなって。
もっと俯瞰して、先生や保護者の方々と、もっと子どもたちのためになることを一緒になってやっていけたら、いろんな学校と繋がっている人でいられたらと思っているんです。だから、共感できます。一歩ひいた立場で、現場の人じゃないけど、現場の人たちからしたら「こういうのほしかった」っていうのを提供している人。それが理想ですね。
かずませんせい それはすごく考えますね。まだ未熟な段階なので、どこまで実現できるものなのか分かりませんけど、間違いではないと思っています。
―― NAGOMI MINDとしても、是非ご一緒したいです。
かずませんせい みんなと、手をとりあって。みんなで、上がっていく。
SNSをやっていて、名前が売れてきたりすると、「いいね」「ここまで来たらやりたいことやるだけじゃん」ってよく言われるんですけど、僕としては、一人で露出して「やった!」って思っているわけではなくて、みんなで、何かしたいんですよ。
むしろ、みなさんをもっと世に出したいじゃないですけど、「保育者っていうプロの集団がこんなにすごいんだよ」って、知らしめたいというか。
―― あ、でもなんかわかります。湧いてくるイメージとしては…
「大丈夫!」って思いながら、みんながそれぞれ生きたい方向に進んでいく未来。かずませんせいは、行く先を照らしている存在って感じですよね。
かずませんせい それだけでいいんですよね。僕が何かを成すというよりは、僕がそのきっかけになればいいなって。みんなで取り組んだ結果、みんなが幸せになる。それが僕の幸せだし、もちろん僕自身もそれでステージが上がっていくというか。
自己犠牲でみんなを応援するのではなくて、僕が前に立つし、みんなも一緒に行こうっていう思いがすごい強くて。
それが結果的に「保育者ってすごい」になればいいし、その中の一人である「かずませんせい、すごい」は、それはそれで嬉しいし。だから、僕だけが先に行って、僕の発言が正しいみたいになるのは嫌です。議論して、深めていくその集団がすごいのであって。
それって別に保育者だけじゃなくて、子どもに携わる人全員にも言えますよね。子どものために活動するNPO法人の方々かもしれないし、子育てをしている一人のママかもしれないし。そういう、子どもに携わっているみんながすごいんだよ!っていうことを、世に伝えていきたいです。
保育者にとっては当たり前になっている、その凄さみたいなものが、意外と社会には伝わっていないじゃないですか。いまだに「保育園って鬼ごっこしてれば終わるんでしょ」っていう方もいたりして。
知らないことが悪いこととは思わないですけど、知らないような構造になっている社会をどうすればいいか?それは現場の人が、当事者として声をあげていけばいいってシンプルに考えています。その火付け役というか、なんらかになれれば、僕はもう満足です。
全7回に渡ってお届けしてきた、かずませんせいのインタビュー。最終回は、かずませんせいはどこに向かって進んでいくのか?ということを伺っていきました。
複数の選択肢をあえて描いているという中で、どの道を進んだとしても常に大事なことは、子どもに関わる当事者であり続けること。
そうあることが、保育者をはじめとした子どもに携わるすべての人を巻き込んでいく”当事者研究” になり、実践的な活動として世界を変えていく力を持つように感じます。
かずませんせいは、1つの場所にとどまるよりも、様々な場所や人をつないでいくような役割を担いたいというお話も。
一方で、地域に根ざした1つの場所を大切にし、手の届く範囲の子どもたちの幸せを大切に守る人たちの存在が欠かせません。
そうした、様々な立場と役割にある保育者同士が、それぞれに誇り高く学び合う、そのようなつながりが出来たら…。
それは、わたしたち、NPO法人NAGOMI MINDとしても、一緒に取り組んでいきたい大切なテーマです。
NAGOMI MINDの設立当初から今まで、様々な形で関わっていただいているかずませんせいも一緒に、今年は少し大きなチャレンジをしたいと思っています。
詳細は、追ってお知らせしますので、ぜひ応援してください。
写真/文章:塚田 ひろみ
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