保育者のキャリア研究のこと〜保育の職場特有の難しさについて〜
Vol.1〜Vol.3まで、かずませんせいの幼少期から現在までにフォーカスしてお話を伺ってきました。(過去の記事はこちら:Vol.1・Vol.2・Vol.3)
インタビュー後半となるVol.4から、少し視点を移して、現在の研究のこと、今の保育の業界について思うこと、そして、これからの活動のことを聞いていきたいと思います。
今回は、保育の職場に特有の難しさについてお話を伺いました。一口に、人間関係や業務量、給与面の課題といっても、他の職場とは何が違うのか?統計的なデータと、一保育者としての肌感覚の両面から、語っていただきました。
保育という仕事の本質が見えない=輝きが見えないのではないか?
―― 前回のお話(「保育者のために何かしたい」というお話。詳しくはVol.3を)、めっちゃNAGOMI MINDとかぶりません?方向性が。
超重要ですねそういう視点。私自身はどちらかというと、保育の仕事ってネガティブなイメージが強かったですね。実際に保育士をやっている子が「大変」っていうオーラでしゃべっていたり、この前お会いした先生たちなんかも、いい人なのは分かるんですよ。もちろん、子どもに愛情注いでいるし。でもなんかこう…なんだろう?空気が重ため?
かずませんせい わかるかもしれないな……。
―― なんだか、軽やかじゃないんです。もちろん、責任があるからという理由は、少しは有りますよ。でも、なんかね、もったいないなって思ってしまいました。新しいフレッシュな子が入っても、そういう重ためのところに入っていくと、染まっちゃうじゃないですか。だからみんなが「こういうものなんだ」って染まっていってしまう。せっかくフレッシュな風が入ったのに、なんだかもったいないと思っちゃうんです。
かずませんせい 全体的に「素晴らしい職業だ!!」って言われないじゃないですか。いや、思っているとは思いますよ。ただ、出るのは「大変だね」っていう言葉とか、そういう空気とか。
じゃあ、お医者さんってなったら、「医者ってすごい」という言葉も空気もあるじゃないですか。「医学部行くんでしょ」とか。比べるわけじゃないですけど、保育者もそうあってほしくて。
「子どもってすごいんだよね、楽しくてさ!」とか、「子どもの頃の大事な時期に関われる仕事って凄いね」って、そういうイメージになって欲しいんですけど。
実際出てくるのって、育児とかもそうなんですけど、「大変だよね」っていうことなんですよ。どこか、ちょっとしたモヤみたいな、そんなものがかかっているみたいで。モヤを取り払ったら「めっちゃいい職業!」っていうのが見えてくるというか。
本当のいい部分が見えてない。保育者ってこんなに素敵な職業なんだよっていうのを、自分は肌で感じているので、それを何らかの形で伝えられたら、目指す人も増えるだろうし、社会的にも良い循環になっていくと思うんですよね。
でも、これってあくまでも体験から生まれた理想論です。実際は、目の前の人をどうにかしたいっていう想いがあって。職場とかで実際に辞めていく保育者を見てきて、「やめちゃったの…??」って。やっぱり、友だちとかが辞めていくのは辛かったですね。
保育者はなぜ辞めていくのか?
―― 辞めていく理由って何が多いんですか?
かずませんせい 僕の肌感覚と、データに基づく統計的なものとありますが、、
統計的には人間関係や出産とかが多いですね。給与が安いというのもありますけど、結果それひとつじゃないと思うんです、全ての理由において。
妊娠出産が理由として挙げられているけれど、妊娠出産がいい機会になっているだけであって。そこまでに何かしらの要因が複合的にからみ合っていると思います。他には、業務量、人間関係、給与は大きい理由ですね。厚労省の調査でも取り上げられている項目です。
給与で言ったら、ちょっと前のデータになりますけど、全体の平均値に比べて月10万円くらい安いんです。今現在(2023年時点)は、処遇改善や家賃手当もあるのでそこまで開きもなくなってはきましたけど。でも単純に月収としてはそのくらい開きがありますね。その割には、責任が大きいです。
加えて、人間関係の大変さもあるという状況ですね。
保育者に特有の人間関係の難しさと解決の糸口
―― 人間関係っていうのは、主に誰との問題になるんですか?
かずませんせい 個人差は有ると思うんですけど、よく、お局みたいな保育士と、とか、ペアで組んだ担任と合わない、というのは聞きますよね。密室になってしまうわけですから、一年間も。それが合わなければ地獄ですよね。これは憶測の部分もあります。ただ、肌感覚としてはよく聞くことですね。
人間関係は難しいですよね。でも社会一般に人間関係って難しいものだとも思います。
―― ですね。人間関係で辞めるって、どの職業でも挙げられる理由じゃないでしょうか。でも、今の話を聞くと、やはり閉じられた環境というか、、
かずませんせい そこは大きいです。逃げたくても逃げられない。
―― 大きな会社とかだと、部署もいっぱいあって、色んな人と関わり合うチャンスがあるけど…。
かずませんせい 3〜4人のうち、2人が仲が悪いのと、2人だけで仲が悪いのとでは、全く意味がちがうというか….。かつ、その仲の悪い相手が、園長から気に入られてたりとかっていう状況があって。色々考えると、言い出せない、みたいな辛さもありますよね。
―― いやー、確かに。
かずませんせい そういう悩みを抱えている人は少なくないと思いますね。むしろ一人のほうが楽っていう人も居ます。子どもを見るのは大変だけど…。
―― 確かに。チームとか、組んだ人が合わないと辛いですね。
かずませんせい 人間関係とか性格が合わないのも辛いですが、ちょっと専門的な話になると「保育観」が合わないのも辛いんですよ。ここで子どもを怒るか?怒らないか?でズレたり。「なんで怒らないの?」っていうところの、ちょっとした歪みみたいなところが有るんです。
なんで、この先生は怒るのに、こっちの先生は怒らないの?というズレは、そこを合わせるのが難しい。でも、さっきの人間関係さえ上手くいっていれば、そこの問題はクリアになる気がします。話し合いができる関係があれば。
―― そうですよね。話し合いができないのがよくないですよね。
かずませんせい ですね。ちょっとしたズレは毎日ありますしね。そこも色々含め、保育者のキャリアを明らかにしていくっていうことが、今の研究テーマです。
まだ保育者のためになるような論文が書けるわけではないですけど。今は土台を築く時期だと感じていて、まずキャリアって何?とか、保育者のキャリアのあり方、形成のされ方というのを、今までの先行研究から整理している段階ですね。
修士課程の最後の方に、ちょっとでもそれが明らかになれば万々歳で、研究はそんなに楽なものでは無いというのも感じているので…。この先長いスパンで、いずれ明らかにできたらって思っています。
保育の職場の難しさ。特に人間関係の面では、代表の私(塚田)も一人の当事者として、大きく頷きながらお話を伺っていました。そして、本質的には素晴らしい仕事であるにも関わらず、それが見えない状況になっているというお話。ここに、実体験をもって「保育は本当に楽しい仕事」と言い切ってくれる存在がいることは、この先の未来にとって、とても大きな糧になるだろうと思います。
次回は、この難しさをどうやって超えていくのか?変えていくのか?をテーマに、未来の話をしていきたいと思います。
インタビュアー:西 由紀子
写真/文章:塚田 ひろみ
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