【インタビュー】研究者であり、現役保育者である”かずませんせい”のキャリアパスVol.3

自分ひとりでは知り得なかった道

前回のVol.2では、かずませんせいにとって保育者としての原点となる、幼少期から保育者を志すまでのことを伺ってきました。

 

大好きなお兄さんの跡を追うように進んできた中で、このまま先へ進むことに感じた違和感。「本当に好きなことは何?」と自問して出した答えの先に、天職とも言える仕事との出会いがありました。(Vol.2はこちらから

 

そして、その先にはもう一つの大事な出会いが。

 

今回は、保育者を目指すために入学した短大でのこと、恩師との出会い等について伺っていきます。

 

地元の短大で出会った恩師とは、幼児教育の5領域の1つ、「表現」に象徴される芸術を教える先生。大学の教員でもありながら、ご自身もアーティストとして展示活動や舞台美術も手掛ける、佐貫巧先生です。

 

佐貫先生は、当NPO法人NAGOMI MIND(ナゴミマインド)の創立メンバーでもあり、現代アートワークショップ事業などを行うメンバー。かずませんせいと、私たちを引き合わせてくださったのも佐貫先生でした。

 

大切なタイミングで訪れる大事な出会いが、かずませんせいのキャリア形成に与えたきっかけ、変化などを追っていきたいと思います。

年齢も上下関係も抜きに信頼できる先生との出会い

――佐貫先生とは、私も舞台の仕事などでご一緒させていただきました。確か、同い年だったかな。

かずませんせい  佐貫先生は、当時から本当におもしろい先生で、先生というより友だちみたいな感覚ですね。僕は本当にリスペクトしていて、「先生!」って感じなんですけど、佐貫先生の方がそういう感じを出してこないですね。

 

すごく、信頼できる方です。

 

いきなりもう仲良くなりましたもん。入学して、数週間とかで。

 

男子生徒が少ないので、僕たちは佐貫先生のことを「さぬきちー」とか呼んでいたんですけど、優しくて(笑)。佐貫先生は僕たちのことを「悪ガキー」なんて呼んでいて。僕たち、そのときはまだやんちゃだったので、授業を抜け出してカフェに行ったりとか、漫画雑誌なんかを授業中にこうやって(机の下で)読んだりとか、みんなでふざけてやりとりして。

 

それが、先生的には、あ、先生っていうのは佐貫先生だけではなくて、他の先生的にも良かったみたいで。元気があっていい、というか。すごく、いい環境でした。その中でも佐貫先生は特に仲が良かったですね。当時は本当に大好きな先生でしたね。今もですけど。

かずませんせいと佐貫先生。茅ヶ崎の海で。

「学生として」から「保育者として」 違う形での学びあう関係に

かずませんせい  卒業後、就職した幼稚園に佐貫先生が造形活動をしに来てくれてたんです。

 

それは僕が、佐貫先生と何かできたらいいなっていう思いもあり、園長と交渉しました。短大時代の先生で、おもしろい表現・造形の活動をしてくれる方がいるんです、って。

 

園長も、「かずませんせいの紹介なら」って受けてくださって。

 

一緒に活動していく中で、当時の学生としての関係とは違う形で話をしているわけですよね、保育者ですから。僕もちょっと真面目な感じになって。佐貫先生もすごく褒めてくださる方なので、学生時代よりも、もっと良いコミュニケーションが取れるようになりました。

 

そのとき、漠然と力不足を感じて、園見学を始めたりしていた時期なのですが、、

 

「どこを目指したい」、「何をやりたい」って佐貫先生に話した結果、大学で学ぶことを勧めてくれたんです。

 

僕からしたら、「そんな道あるのか!!」って感じだったんですよ。短大卒で保育者になれるのに、大卒の保育者である意味があるの?っていう感じだったんで。現場に出た方がいいじゃんって。

 

けど、やっぱり、悶々と力不足を感じていた時期にあって。大学で学ぶ、というその道を示してくれたことで、「そうか、その道もあるのか」って考えはじめました。それがきっかけだったかな、上京という意味では。

 

上京するも、誰も予想できなかったような状況に

かずませんせい  ということで、上京することになるのですが……。

 

それまでも大変でした。大学受験がありますから、当時年長クラスを持っていたので、担任をやりながら、休みを頂いてオープンキャンパスに来たり、受験をしに来たり、そのまま帰って、また次の日から30人をみて、行事もやったり、その日の活動をしたり……。

 

ということをこなし、無事に編入する大学が決まりました。

 

受け持っていた年長さんを卒園させて、僕も卒園。それで4月に上京するのですが、いわゆるコロナ禍での緊急事態宣言….。怒涛のタイミングなんですよね。

 

東京でやりたかった園見学が出来なくなるんですよ。それで自ずと、勉強だけに向かうんです。その中で、保育だけじゃなくて幅広い視点を持ちたい、広い視野で物事をみたいということで社会福祉士の資格を取りました。

 

――もし、緊急事態宣言がなかったら、全然違う今があったかもしれないってことですか?

 

かずませんせい  そうですね。可能性としては大いにあったと思います。現場をめちゃめちゃ見て。実際はどうしていたか分からないですが。でも、今が悪いとは思わないですよ。辛かったですけどね。「外に出たい!」って思いながら過ごしていましたから。

 

――そうですよね、せっかく東京に来たのに。

 

かずませんせい  全然東京じゃなかったですもん。全てリモートで授業受けて、「青森からでも授業受けられたじゃん!」って。

 

――本当にあの時期に大学入学とか、新しい環境に居た人は大変でしたよね。その環境の中、大学で学んで来たわけですね。

 

かずませんせい  はい、今は大学院に進学して2年目です。

その少し前、大学4年時の5〜6月頃でしたかね。コロナ禍で全然先生と会わないわけですよ。「教えている先生、誰?名前しかしらない」みたいな。

そんな中、当時の学長先生が、僕のために時間を割いて学長室に招いてくれたんですよ。僕からメールを出したんですね。こういう思いで上京したのに、なかなか……って。そうしたら、会ってくれて。

 

――メールを出したんですか?!その行動力ですよね!ちゃんと、チャンスを自ら取りに行ってますよね、結局は。

 

かずませんせい  はい。それで、向き合ってくれて、本当にいい学長先生でした。今は退任されていますけど、当時は時間を割いて、しっかり落ち着いた感じで話をしてくれて。

 

その出来事は、大学4年になって進路を考えることにつながっています。その先生が大学院でも教鞭を取っているということを知って、「あ、それは是非学びたい!」って。講義は全てリモートで、直接学べなかったから、大学院に行けば直接その先生に教われるかもって思って、相談もしていましたね。

 

大学の先生なわけですから、一人の受験生に肩入れはできないじゃないですか。だから、あまり具体的なことは言えないけど、応援してますよってことを言ってくれて。それで、大学院へ行こうって決めました。その学長先生の存在は大きいですね。

 

でも、その先生も体調を崩されたりで、実はすれ違いになってしまって。大学院へ入学したら、その先生はいないっていう状況なんです、今は。

 

でも、なんで大学院にいくの?って、それだけじゃなくて。何か、「保育者のためになるようなことをしたい」というのが常にあったんですね。それはもう、幼稚園に務めていた頃からずっとなんですけど。

幼稚園が本当に楽しかったんですよ!!僕は。でもみんながそうではないんだ、って気がついて。大変だったり、辛かったり。それがちょっと悲しいですよね。

 

こんなに楽しいのに、ニュースで取り上げられるのは給与が安いとか、最近だと不適切な保育だとか。イメージダウンと言ったら大げさかもしれないけど、「もっといい職業だよ!」ってことを僕は何らかの形で提示したい

 

それは、僕が楽しんでいるっていうのを見てもらうのも一つだし、僕がお話をするのもひとつだし、どんな形かそのときは分からなかったです。

 

けど、なんか保育士ってこう、もっといい職業だよ!っていうのを伝えたり、実際にもっといい職業にしていくためにも、保育者のためになる研究をしたくて。

 

保育系の大学院だと、子どもを対象とした研究が多いと思うのですが、僕の場合は研究対象が保育者だったんですよね。ということで、今は保育者のキャリアについて研究して、インタビューを取ったり、データをまとめて、論文を書き上げている段階なんです。

 

Vol.4へつづく


今回は、大学進学に至るまでのこと、実際に大学生・大学院生となった今のことまでを伺いました。東京で大学に進学するタイミングで、また、大学院へ進学することを決めるタイミングで、大事な人との出会いから道がひらけたことを見てきました。

 

また、Vol.1でも度々語られてきた「保育という仕事が本当に楽しい!」という想い。幼稚園に勤務されているときから、「保育者のためになることをしたい」そんな想いをお持ちだったこと、私たちも初めて知りました。

 

私たち、NPO法人NAGOMI MINDも、保育者さんが幸せに、笑顔で、学び豊かな保育が行われていくことを目指して立ち上げたチームです。

 

次回のVol.4では、かずませんせいが、今まさに行っている研究のことを伺いながら、まずは<保育の職場>の現状にフォーカスをあてて、保育者のキャリアや働き方に変容を起こすための共通ベースとしてお届けしたいと思います。

 

インタビュアー:西 由紀子
写真/文章:塚田 ひろみ


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